外側型野球肘の治療方法の選択~どうやって治すか

治療方法を決めるポイントは以下の通りです

① 年齢 まだ肘周囲の骨の成長線が残っているかどうか

② 病変の大きさ 

③ 剥がれた軟骨や骨のかけら(関節ネズミ)があるかどうか

④ まだ剥がれていない部分の状態がどうか。(安静でくっついてくるか、それともほとんど剥がれておりやがて脱落してしまう状態か)

⑤ 野球をずっと続けるかどうか(上の学校に入ったら他のスポーツに変わっても良いか。それとも野球をずっと続けたいのか)

どの治療方法を選ぶかは スポーツドクターの間でも考え方がいくつかあります。ここでは私が「これがベスト」と信じる方法をご紹介していきます。

これらの判断には、X線や超音波(エコー)検査以外にCT、MRI検査が必要です。MRIは1.5テスラ―以上のもので脂肪抑制画像という方法が必要です。せっかくご紹介で来て頂いてMRIをお持ち頂いてもこの方法でない画像の場合には撮り直しが必要になる方もおられます

1.保存療法・経過観察

半年から2年くらい、完全に運動を停止し、自然修復を待つものです。成長線がまだ残っている場合には大きな病変でも修復が期待できます。
しかし、すでに剥がれてしまった軟骨や骨がある場合にはこれがもとの場所に戻るわけではありません。
野球肘検診などで見つかり、曲げ伸ばしの制限などがない場合、関節ネズミがなく剥がれかかってもいない(軟骨の下が空洞になっていない)場合、手術をしなくても修復が見込めます。
但し、長期にわたるスポーツ制限が必要なので、選手本人や保護者の理解と忍耐力が必要です。
また、ただスポーツをしないというのではなく、野球肘の原因となった「フォーム不良の矯正」「股関節・肩関節の動きを改善させるストレッチ」「体幹や肩のインナーマッスルの強化エクササイズ」などをコツコツ行う必要があります。この方法については別のコーナーで紹介します

2.超音波治療(LIPUS法 リーパス法)

治りにくい骨折などでは手術の後に、低出力パルス超音波治療(LIPUS法)が使用されることがあります。これは超音波パルスによる生体への機械的刺激により、骨化を促し、骨を早く癒合させる効果があるもので、野球肘に対しても効果が認められています。

1日1回約20分小さなシールを患部に当てるだけで痛みは全くありません。

ただ原則として毎日、少なくとも週3回以上行う必要があります。

また、この間は肘を使う運動は停止する必要があります。これを守らないと効果は全くありません

3.手術(関節鏡手術)

手術には様々な方法があり、私自身もこれまでいろいろ行なってきましたが、現在スポーツ選手に対してはほぼ全例に関節鏡(内視鏡)を用いた手術方法で対応しています

「肘にメスを入れたら選手生命は終わりだ」 とかつて言われていた時代があり近年でもそのように思っている方が少なくありません。これはかつての手術方法が、損傷がある深い部位に到達するために正常な筋や腱、関節の袋を切って開いたり、手術後に固定をすることから、瘢痕形成による屈伸制限が起きたり、一度切開された正常な筋や腱の機能の回復に時間がかかり復帰が遅れていたことや変形に進行するのを防ぐために手術を受けても投球動作への復帰は困難とされていたことが原因の一つです

肘関節鏡手術では、創が小さく瘢痕の違和感が起きにくいこと、手術後の固定は不要なことなどから高いパフォーマンスを求めるスポーツ選手に大きな効果があります。

この項では私が行っている方法を紹介していきます。

肘の関節鏡(内視鏡)手術は肘に2~4か所、5ミリ程度の切開を行ってそこから関節鏡をと細い器具を入れ画像をみながら処置を行うものです。

切開手術に比べ、肘周囲の筋を大きく傷つけないため筋力を落とさない事、切開手術の傷の瘢痕によるツッパリ感が少ないことなどから、スポーツ復帰が早いことが大きなメリットです。また関節鏡による手術は内部を拡大してみることができるため関節の細かい処置を正確に行うことができます。

(1)肘関節鏡視下郭清術・ドリリング手術

関節の病変部分が小さい場合に行う方法です。(径10㎜未満が目安です)

痛んで不安定になってしまった関節面の骨や軟骨部分、剥がれた部分を関節鏡で摘出し、母床部分を郭清し新鮮化します。病変部分の自己修復を促すために、軟骨がはがれてくぼんだ部分の掃除を行い修復を促進するわけです。

十分な自然修復を促すためにそこに径1ミリ程のドリル孔を5~10カ所あける場合もあります。

このドリル孔から骨髄部分から修復能力の高い細胞や成分を関節面部分に誘導するのです。

2〜4ヶ月で投球に復帰します。

(2)関節鏡視下骨軟骨片接合(骨釘・吸収ピン打ち込み)

関節の軟骨が剥がれかかっていても、そのかけらが軟骨だけでなく骨の成分を伴って剥がれかかっている場合には、しっかりと密着させることで骨どうしが癒合し、剥がれかかったかけらをつけることが期待できます。この時図のようにピンで固定して密着する方法があります。このピンは患者自身の別の場所から骨を削って作る場合と、人工物である吸収ピン(やがて溶けて骨になる)を用いる場合があります。

 この方法は切開手術でされることが多いのですが、私は関節鏡手術で行っています。

人工吸収ピンを用いると体の他の部分を傷付けずに行えるのですが、骨どうしを密着力が弱いという欠点があります。
そのため最近では次に述べる骨軟骨移植により、かけらをしっかり固定する方が良いと考えています。

(3)関節鏡視下骨軟骨移植術(モザイクプラスティ法、OAT法)

関節の痛んでいる部分が広い場合 や 選手が高学年の場合、あるいは 前記の保存療法や(1)、(2)の手術で修復できなかった場合にもこの手術を行います。
切開手術でも治療が難しいとされる「外側広範型の離断性骨軟骨炎」に対してもこの手技で治癒できることを確認しました

方法は、からだの他の部分から関節軟骨と骨の小さな柱を採取して病変部分に埋め込んで関節面を再建するというものです。もらってくる場所は肋骨の部分や膝の部分になります。膝は人体で最も大きな関節で、その関節軟骨の中には膝の運動でほとんど使われていない部分があります。ここからクッキーの型抜きのような道具(筒状のちいさなノミ)を使用して、直径4~8㎜、長さ15㎜くらいの円柱形をくり抜いて、これを肘の関節面の欠損した部分に埋め込みます。
実はこの手術も切開手術で行われることがほとんどですが、私は関節鏡を用い、小さな傷で正確に行っています。

膝から採取しても手術翌日からすぐ体重をかけて歩くことが出来ます。ただし、膝に水がたまるのを防ぐため1カ月半はダッシュなどはしないようにします。

関節鏡でこの骨軟骨移植術を行った選手を調査すると、(1)~(2)の手術よりも確実に修復ができ、復帰も1か月ほどしかかわらないので、最近では、この手術をはじめから行う場合も多くなっています。


なお、この手術の方法については、学会や論文などで発表していますが、整形外科医からのご質問、ご見学も多いので 医療者向けの動画を準備しました。

以下のボタンからご覧ください

※ 手術動画ですので一般の方向けではありません。ご注意ください


参考文献) 

 1)肘離断性骨軟骨炎に対する肘関節鏡視下骨軟骨移植術(OAT)の術式と成績.関節外科2017 36(9):983-991.

 2)Single OATS システムを用いた肘離断性骨軟骨炎に対する関節鏡視下骨軟骨移植術.日本最小侵襲整形外科学会誌2016; 16(1):2-15.